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着物の知識
丸染め 現実と可能性
2022/9/12
皆様こんにちは。
先日「丸染めって、やってもらえますか?」という問い合わせがありました。
「丸染め」とは、着物を解かずに、そのまま染料の中に入れて染め替える技法のことです。
せっかくお問合せをいただいたのに、大変申し訳ないのですが
当店では「丸染め」による染替えは承っておりません。
理由としては、絶対に綺麗な状態で出来上がることがないからです。
では、どういう状態になるのか、順を追って説明します。
①単衣・袷共にあるデメリットですが、キセがなくなります。
キセとは、縫い糸が外から見えないように、縫い目より外に
折り目を付けることを言います。
これは、背縫いの部分を撮った写真ですが、縫い目が見えていません。
※丸染めした着物ではありません。
強引に指で広げると縫い目が見えてきます。
この「キセ」があることによって、縫い目が見えず
美しい仕立て上がりになります。
それだけではなく、このキセがショックアブソーバーの役割をして
縫い目から生地がひけることを防いでくれます。(完全には防げません)
染料に浸けることによって、このキセが開いてしまいます。
②裾と袖口のフキが、なくなってしまう。もしくは、出過ぎてしまう。
これは、裾のフキを撮った写真です。
フキは、裾と袖口にあるのですが、ほんの少しだけ裏地(八掛)を表地より出して
裏をチラ見させるようになっています。
このフキが、一定の長さで裾や袖口全体にあるのですが、
丸染めをするとフキが波打ったり、なくなってしまったり、出過ぎてしまいます。
実際に丸染めをする業者の説明会で見せられた見本は、フキが通常の倍くらい
出ていました。
➂縮む(特にタテ方向)
ネットで丸染めのビフォアー・アフターを見てると
縮んで身丈が短くなっている物が多く見られます。
ちょっと小さい画像で見にくいと思いますが、
赤丸で囲んだところに注目してください。
衣桁の真ん中にある黒い棒と、まるで囲んである
部分の柄の位置を比べると、明らかに縮んでいます。
おそらく1寸(約3.8cm)は縮んでいると思います。
それくらいなら問題ない場合もありますが、
お客様の体型によっては、着にくくなってしまいます。
④収縮率の違いで、いろいろな所に狂いができる。
これは、特に袷の着物に言えることです。
着物になった状態で染料(要は水)に浸ける訳ですから必ず縮みます。
それを元の寸法に戻す作業があるのですが、縮んだ物を
引っ張ってプレスするのです。
この写真は、裏地(八掛)の裾部分を撮った物です。
赤丸部分に小さな縫い目の様な物が見えると思いますが、
この小さな縫い目で、八掛がずれないように留めてあります。
強引に引っ張ってプレスされた、丸染め済みの着物をたくさん見ましたが、
かなりの割合で、この部分から八掛がひけて穴が開いていました。
最後に、仕立に狂いが出ている例を見つけましたのでご紹介しておきます。
グリーンの着物の裾部分に注目してください。
表地がダブついています。
この着物をお召しになった時には、裾がダブついて美しい着姿にはならないと思います。
少々裏地がダブついているのは、問題ないのですが
ここまで表地がダブつくというのは、当店では許容できません。
しかも、通常は簡単に直せる物も、丸染めをして強引にプレスしたために
直せなくなる場合もあります。
こうやって書くと、丸染めの悪口ばかりになってしまいますが・・・
丸染めに可能性が無いわけではないのです。
私も、出来るだけコストを掛けずに染替えが可能なら
そんな良いことはないと思っています。
比較的新しい加工で、蒸気と水の力だけでシルクに防縮性を持たせる
シュリンクプルーフ加工という加工があります。
かなり優秀な防縮加工で、水に浸けても1%~2%の収縮率に収まるようです。
とても興味があったので、ちょっと前に、加工している業者に電話して
「表地・胴裏・八掛・縫い糸にシュリンクプルーフ加工を施せば
丸染めの欠点を補えるんじゃないか?」
と質問したら、
「理論上は可能ですが、縫い糸にまで加工するということを考えていませんでしたし、
丸染めに対応させることを想定してませんでした。今後の検討課題にさせていただきます。」
との回答をいただきました。
生地が縮むことを克服できれば、あとはキセの問題だけです。
そこが解決できれば、当店でも丸染めがお薦めできるようになるでしょう。
早くその時が来ることを願っています。
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