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結城紬の不正と産地の苦悩
2022/8/21
先日も本場結城紬について書きましたが、
今回は本場結城紬に不正があった話です。
本場結城紬の不正というと、証紙の不正交付と糸の不正がありましたが
今回は証紙について。
皆さんは、本場結城紬を購入しようと思って
百貨店や呉服屋なんかに行き、実際に反物を手に取った時に
「重要無形文化財指定」と表記されているか、されていないか
どちらがその商品に価値があると感じられるでしょうか?
写真上 2004年までの証紙 重要無形文化財指定の証紙あり
写真下 2005年以降の証紙 重要無形文化財指定の証紙なし
もちろん「重要無形文化財指定」と書かれた証紙が貼られていた方が
間違いない本物だとか、高級な物だとか思われるんじゃないでしょうか?
実は、先日からトップ画像に使っている↑の本場結城紬には
本来「重要無形文化財指定」という証紙を貼ることができなかったのです。
しかし2004年までに本場結城紬卸商協同組合(以下、組合と表記)の検品を受けた物には
「重要無形文化財指定」の証紙が貼られていました。
そうです証紙が不正交付されていたのです。
2004年までは「重要無形文化財指定」の要件を満たさないのに
堂々と証紙が貼られていたのです。
では、↑写真の本場結城紬は偽物なのでしょうか?
いいえ。本物の本場結城紬です。
(証紙を紛失してしまったので、ここで証明することはできませんが💦)
ここまで読むと意味が分かりませんよね。
本物なのに、重要無形文化財に指定されていることを
証明する証紙が貼れないなんてどういうこと?って思われて当然です。
ここで本場結城紬が重要無形文化財に指定されている3要件をおさらいします。
1. 使用する糸はすべて真綿より手つむぎした撚りの掛からない無撚糸を使用すること
2.絣模様を付ける場合は手括りによること
3.地機で織ること
※無地、縞、格子は、絣が入らないので1と3を満たしていれば要件を満たします。
実は↑写真の結城紬は2を満たしてないのです。
絣で模様を付けている部分は「刷り込み」という技法を用いて染色され、
「絣模様を付ける場合は手括りによること」が物理的に不可能なのです。
実際に絣を括っている部分は動画で見ていただくと分かりやすいので
動画を貼っておきます。(絣括りは57秒~)
動画をみていただくと分かると思いますが
絣を括るということは、その括った部分に染料が入らず染色されません。
実際に反物として織りあがると、その染色されていない部分が絣模様になるのです。
ということは、絣を括る=地色より絣部分の色が薄くなるんです。
ここで↑の写真を見直してもらうと、白地に抜いた部分に
黒とエンジとグリーンで絣模様が付けられているのが分かると思います。
そうです。この絣部分は括って染めることが不可能なので、「刷り込み」で染色しています。
「刷り込み」とは、糸に直接染織して絣の模様を作ることです。
※刷り込みは上記動画の1分15秒~
例として
↑は地色よりも絣部分の方が濃い色なので、絣は括ってません。
刷り込みで染色されているので、重要無形文化財の指定要件の中で
2を満たしていません。
↑は絣部分が白と水色で、地色の濃紺より薄くなっていて
絣を括っているので、重要無形文化財の指定要件を全て満たしています。
無地と縞、格子は指定要件の1と3を満たせば重要無形文化財指定の証紙が貼れる。
無地と縞、格子と同じ製作工程に「刷り込み」という技法を足せば証紙が貼れない。
重要無形文化財指定の証紙が貼られた商品だけを作ると
市場に出回る本場結城紬は地色が濃い色ばかりになってしまう。
消費者から薄い地色で柄が入った着物の要望もある。
しかし「重要無形文化財指定」の証紙が貼られていない物は
市場で価値を認めてもらえない。
無地と縞、格子と同じく、指定要件の1と3は満たしているのだから
証紙を貼ることは問題ないだろう。
そんな産地、組合の苦悩があったのだと想像できます。
いくら苦悩があったとしても、不正は不正。
じゃあ一体、誰が悪いのか?
要件を満たしていないのにも関わらず、証紙を貼った組合にも責任はありますが、
証紙に頼り過ぎた我々呉服屋が一番悪いんじゃないか?と思っています。
本場結城紬について勉強することもなく、「重要無形文化財指定」という言葉だけを
謳い文句にセールスし、その本当の魅力を伝えることを怠ってきたのではないか?
そんな自省の念を込めて記事にしてみました。
長文にお付き合いくださり、ありがとうございます。
今回の本場結城紬の話とは別に、結城縮(無撚糸であることを満たしてない)に
ついても同じことが言えるのですが、長くなりすぎるので別の機会に・・・
結城紬が好きだからこそ、文化財だとかユネスコだとか関係なく
本当の魅力を伝えていける呉服屋でありたいと思っています。
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